おばんです。
翡翠(HISUI)です。
今夜のアトリエには、深紅の石たちが並んでいます。
ろうそくの灯りがゆらめくたび、ルビーの内側で、ちいさな鼓動のような光が脈打って見える。
この夜は、ひとつの童話のお話を、あなたへ。
一章 ── あの林檎を、もう一度ひらいてみる
幼い頃、白雪姫の絵本を、何度も読み返しました。
魔女の手からそっと差し出された果実。
赤くて、つやつやして、罪のように甘そうな、あのひとつの林檎。
ひと口かじった瞬間、彼女は崩れるように倒れて、長い長い眠りに落ちる。
私はそのページを開くたび、心の奥でずっと問いを抱えていました。
白雪姫が口にした、あの一個の林檎。
あの瞬間、彼女は何を見ていたのだろう。
絵本は何も語りません。
ただ、夜の声を聴く者として、私はこう思うのです。
あの林檎は、彼女から命を奪うためのものではなかった。
彼女に、新しい眼差しを与えるためのものだったのではないか、と。
二章 ── 毒林檎は、本当に呪いだったのか
呪い、と私たちはずっと呼んできました。
けれど、よく考えてみてください。
あの林檎を食べたあと、白雪姫はどうなったでしょう。
長い眠りのあと、彼女は目を覚まします。
そして、もう二度と、無垢で従順なだけの少女には戻りませんでした。
偽りの笑顔も、甘い誘いも、もう彼女には通用しない。
それは、呪いでしょうか。
それとも、目覚めでしょうか。
魔女が差し出したあの果実は、
従順という名の眠りから、彼女を引きずり出すための、最後の鍵だったのかもしれません。
毒は、ときに薬よりも深く、人を変える。
あの林檎は、覚醒という名の朝への合図だったのではないか、と私は思っています。
三章 ── 甘さの奥に眠る光
ひと口かじれば、甘さの奥に眠っていた光が目を覚ます。
これは、毒林檎シリーズに込めた、私のいちばん大切な言葉です。
人は、誰かの期待に応え続けるうちに、自分の声が聞こえなくなることがあります。
気づいたときには、自分の人生の中で、自分が他人になっている。
そんな夜が、あなたにも、もしかしたらあったかもしれません。
毒林檎は、そんな夜にこそ寄り添う果実です。
甘さの奥に、ずっと眠らされていたあなた自身の光。
それを、もう一度、目覚めさせるための果実。
白雪姫が、もう二度と眠らないように。
あなたが、もう二度と自分を見失わないように。
四章 ── ブレスレットに編み込んだ、夜の物語
Noctéline〈Pomme Empoisonnée〉── 毒林檎。
このシリーズに編み込んだ石たちは、すべて「夜の側」に立つ石です。
明るい昼の世界で輝く石ではなく、夜の静けさの中で、芯を持って光る石たち。
ひと粒を選ぶとき、私はいつも、白雪姫のあの場面を思い浮かべます。
魔女が差し出した果実を、彼女が指先で受け取る、あの一瞬。
覚悟と、好奇心と、ほんのすこしの不安が混ざり合った、あの眼差し。
その眼差しを、石たちに託しました。
五章 ── 石たちの古い記憶
毒林檎シリーズに編み込んでいる石たちは、それぞれに古い物語を持っています。
カイヤナイト ── 真実の藍
カイヤナイトの深い藍は、古来「真実の石」と呼ばれてきました。
偽りの言葉が近づいたとき、その澄んだ藍がそれを跳ね返してくれる、と語り継がれています。
夜空のひとかけらのような、静かな深みを持つ石。
ルビー ── 情熱と誇りの王
ルビーの紅は、古代から「情熱と誇りの王」と呼ばれてきました。
胸の奥でちいさく燃え続ける火種のような石です。
弱気になった夜、自分が何者であるかを思い出させてくれる、そんな赤。
モリオン ── 夜の盾
漆黒のモリオンは、欧州の魔女たちが「夜の盾」として用いてきたと伝わる石です。
不要なざわめきを遠ざけ、自分のまわりに静謐な結界を張ってくれる。
スモーキークォーツ ── 大地に根を張らせる石
煙水晶とも呼ばれるスモーキークォーツは、「大地に根を張らせる石」とされてきました。
心が空に漂って戻れなくなりそうな夜、すっと足元に重みを与えてくれる。
ロードナイト ── 許しと変容の石
そして、深い薔薇色をたたえたロードナイトは、古来「許しと変容の石」と呼ばれてきました。
過去の傷を、ただの傷では終わらせず、誇りに変えてゆくための石。
毒林檎の物語に、これほどふさわしい紅は、他にありません。
六章 ── どんな夜に、この石を選ぶか
派手な約束は、私はいたしません。
ただ、こんな夜に、毒林檎の石たちはあなたのそばで静かに息づくはずです。
- 誰かの声に従い続けて、自分の声が聞こえなくなった夜
- やさしさの裏側にある毒に、ようやく気づいてしまった夜
- 甘い誘いに流されそうになって、自分の輪郭がぼやけている夜
- もう二度と、同じ眠りには戻らないと、心の奥で決めた夜
そんな夜にこそ、この果実をお選びください。
医薬品ではありません。
効能をお約束するものでもありません。
ただ、夜にそっと寄り添う果実として、選んでいただけたらと思います。
結びに ── 彼女がもう、二度と眠らないために
魔女が差し出したあの林檎は、白雪姫の物語を終わらせるためのものではなく、
彼女の本当の物語を始めるためのものだった。
私はそう信じています。
Noctéline〈毒林檎〉は、その続きの物語です。
あの夜、彼女が口にした一口の覚醒を、現代を生きるあなたの手元に編み直したもの。
身につける人を、彼女自身の眼差しの強さへと連れ戻すための、夜の果実。
彼女がもう、二度と眠らないために。
──夜の声を聴きながら、お待ちしております。
翡翠(HISUI)